研修費1,028億ドルが「下流」に消えていく
米企業は2025年、社員研修に推定1,028億ドルを投じた。Fast Companyの報道によると、その大半は「リアクティブで下流的」な支出——すでにスキル不足に陥った社員を後から教育し直すコストだという。
世界経済フォーラム(WEF)の報告では、労働者の40%が半年以内にリスキリングを必要とし、経営者の94%が「社員には仕事中に新しいスキルを習得してほしい」と考えている。だが企業が既存の人材プールを奪い合う間に、プールそのものを広げる投資はほとんど行われてこなかった。
ここに構造的な矛盾がある。多くの企業は人材を「調達する」対象として扱い、「育てる」インフラには目を向けていない。教育への支出は「社会貢献」の予算項目に分類され、サプライチェーンの一部とはみなされてこなかった。
教師320万人という「見えないインフラ」
米国のK-12(幼稚園から高校まで)には320万人の教師がいる。教師1人がキャリアを通じて影響を与える生徒数は、平均3,000人にのぼる。100人の教師をアップスキルすれば、30万人分の人材パイプラインに手が届く計算だ。
教育NPO・MindSpark CEOのケリー・ラウスは、教師こそが「国内最大の人材開発システム」だと指摘する。しかし現実には、企業の教育向け資金の多くは一度きりの感謝イベントやプレスリリース映えするSTEMプログラムに流れ、教師自身の能力開発に届かない。
ラウスはアパラチアの農村部や先住民居住区など、「人材がいない」とされてきた地域で20年間活動してきた。「人材はどこにでもいる。足りないのは、それを育てるインフラだ」というのが彼女の結論だ。
コロラド州グランビーで変わったもの
コロラド州グランビーでは、教師が生徒とともにクラブ活動や選択科目を設計し直した。「何を学びたいか」を生徒自身に問い、カリキュラムの起点を変えた結果、1コーホート内の全員が少なくとも1つのプログラムに自発的に参加するようになったという。
興味深いのは、生徒の能力が突然向上したわけではないという点だ。変わったのはシステムの接続性だった。生徒が「自分には貢献できるものがある」と感じられる環境——それが職業準備の土台を作る。22歳の新入社員に自信を後付けすることは難しいが、13歳の教室でなら可能だとラウスは言う。
サプライチェーンの「最上流」を見直す
ラウスが20年の活動で見極めた「効果のある投資」は明確だ。数年単位の教師育成プログラム、企業と教室の双方向インテグレーション、学区・地域規模のシステム連携、そしてリソース不足の地域への技術支援。逆に持続的な効果が薄いのは、単発の寄付、継続性のないSTEM講座、個人向け奨学金だという。
企業はサプライチェーンの最上流を無視しない。だが人材チェーンの最上流——5歳から18歳の教室——への関わり方は、いまだに「寄付」の域を出ていないケースが多い。
「その寄付は持続的な能力を築いているか、それとも予算サイクルが終われば消えるイベントに資金を出しているだけか」。ラウスのこの問いは、研修費1,028億ドルの配分先を根本から考え直す企業にとって、最初の一歩になるかもしれない。





