「まっすぐ走る」が最優先だった理由
ターゲットの店舗デザイン担当バイスプレジデント、サラ・デュースはFast Companyの独占取材でこう語る。「お客さんは片手にスマホ、もう片方にドリンクを持って、肘でカートを押している。買い物中に何百万ものことを同時にやっているんです」。
新型カートの開発にあたり、20年分の消費者調査から浮かび上がった最大の要望は「スムーズに、まっすぐ進むこと」だった。容量でも見た目でもない。
従来の「ハイブリッド」型カート(2014年導入)は、金属フレームをプラスチック部品で覆う設計だった。金属は曲がりやすく、プラスチックとの接合部にズレが生じると操舵性が一気に悪化する。ターゲットはこの問題を根本から解決するため、Series 3をホイールの一部を除きすべてプラスチックで構成した。プラスチックは金属より剛性を保ちやすく、カートはつねにまっすぐ走るという。
実はターゲットがオールプラスチック製カートを初めて試作したのは2006年のことだ。当時は品質が全米展開に耐えず断念したが、素材技術と設計ジオメトリの改良を重ね、20年越しで実用化にこぎつけた。
スタンレーとスターバックスのためのカップホルダー
新型カートで目を引くのは、完全成型された大型カップホルダーだ。従来のカートにもカップ置き場はあったが、スターバックスのカップに合わせた単なる「穴」に過ぎなかった。Series 3では底面と縁を備えた本格的なホルダーに進化し、四角い設計でさまざまな形状の容器に対応する。
「スタンレーカップとスターバックス、両方同時に置けます」とデュースは笑う。アメリカでは近年、大容量タンブラーが爆発的に普及し、飲料容器の形状そのものが多様化している。カップホルダーの再設計は、その文化的シフトをそのまま形にしたものだろう。
チャイルドシートも改良された。従来は背もたれの角度が浅く、子どもが安定して座れない——場合によっては登って抜け出せてしまう——という苦情があった。新型では背もたれを急角度にし、座面も深くしている。
素材面の利点も大きい。オールプラスチック製のためリサイクルが可能で、初期テストでは耐用年数が従来比2〜3倍に延びたという。部品はモジュール式のため、破損箇所だけを交換できる。「よりサステナブルなのに、より頑丈」という逆説的な進化だ。
ワンクリック時代に「触れる体験」を磨く
ターゲットは近年、厳しい局面に立たされている。DEI方針の転換をめぐるボイコット、アマゾンの利便性やウォルマートの価格競争力に押された株価の低迷。新CEOマイケル・フィデルケは「手頃でシックな小売体験」という原点回帰を掲げるが、それだけで巻き返せるかは未知数だ。
だが、実店舗に顧客を迎え入れる以上、物理的な接点の質は依然として差別化の核になりうる。ターゲットは1970年代に象徴的な赤いカートを導入して以来、カートを「来店客が最初に触れるもの」として設計し続けてきた。Series 3はその延長線上にあり、過去最大の刷新でもある。
50万台の入れ替えは数年がかりの大事業になる。片手にスマホ、もう片方にスタンレーカップを持った客が肘でカートを押しても、まっすぐ進む——ターゲットはその体験に、ワンクリックでは届かない価値を見ているようだ。

