「バーチャル着席」はなぜ生まれたか
Together Modeは2020年、世界中のオフィスワーカーが突然自宅に閉じ込められた時期に誕生した。AIが参加者の頭部と肩を背景から切り抜き、講堂や会議室を模した仮想空間に「着席」させる仕組みだ。The Vergeの報道によれば、同僚の肩をタップしたり、バーチャルなハイタッチを交わしたりする機能もあった。
Zoom疲れが社会問題化するなか、画面にタイル状に並ぶ顔の圧迫感を軽減する試みとして一定の支持を集めた。視覚的な雑音を減らし、対面に近い空気感を演出するという狙い自体は理にかなっていた。
廃止の背景にある「プラットフォーム統合」
マイクロソフトが廃止の理由として挙げるのは、複数プラットフォーム間の断片化の解消だ。Together Mode専用のシーン選択や座席割り当てといった機能は、段階的にビューメニューから消える。
同社は「インターフェースの簡素化、クリック数の削減、混乱の軽減」を掲げている。要するに、選択肢が多すぎてユーザーが迷う状態を整理したいということだろう。Teamsは近年、チャット・通話・会議・ファイル共有・AIアシスタントと機能を拡張し続けてきた。機能の足し算が続いた結果、引き算の局面に入ったとみられる。
ギミックより映像品質という現実的判断
もう一つの理由が興味深い。マイクロソフトは、Together Modeに割いていたリソースを映像品質・安定性・パフォーマンスの改善に振り向けると明言した。
これはリモート会議ツール全体の成熟を示す判断だ。パンデミック初期は「いかにオフィスの雰囲気を再現するか」が課題だった。だが5年以上が経ち、ハイブリッドワークが定着した現在、ユーザーが求めるのは演出ではなく、音声が途切れない、映像がカクつかない、共有画面がすぐ表示されるといった基本性能だという。
仮想背景やアバターなど、パンデミック期に次々と投入された「体験系」機能の多くは利用率が伸び悩んでいるとも言われる。Together Modeの廃止は、その象徴的な一例かもしれない。
リモート会議の次の競争軸
Teamsが基本性能に回帰する一方で、ビデオ会議の競争は新たな段階に移りつつある。AIによるリアルタイム議事録、自動要約、発言者ごとの感情分析など、会議の「中身」を支援する機能が各社の主戦場になってきた。
マイクロソフト自身もCopilotをTeamsに統合し、会議中のAI支援を強化している。仮想空間で隣に座る演出より、会議後に要点をまとめてくれるAIのほうが、忙しいビジネスパーソンにとっては実用的だ。パンデミックが生んだ「バーチャル会議室」は静かに退場するが、その跡地にはより実務的なAI機能が入居することになりそうだ。

