「外国の検閲」を理由にした5人の制裁
2025年5月、米国務省はある政策を発表した。米テック企業に「グローバルなコンテンツ規制」を求める外国政府関係者のビザを制限するという内容だ。同年12月、この政策に基づき5人が制裁対象となった。EUのデジタルサービス法(DSA)施行を主導した元欧州委員ティエリー・ブルトンのほか、偽情報対策団体CCDHのCEOイムラン・アーメドも含まれる。
国務省は制裁対象を「外国による検閲強化を推進した者」と説明している。しかしアーメドは米国の合法的な永住権保持者であり、外国政府の職員ではない。独立テック研究者の連合体CITRは、この政策が学術的言論の自由を脅かすとしてルビオ国務長官らを提訴した。
法廷で露呈した「対象者」の曖昧さ
5月13日、ワシントン連邦地裁でジェームズ・ボースバーグ判事が口頭弁論を開いた。政府側弁護士ザック・リンジーの主張はこうだ。政策の対象はあくまで外国政府のために働く者に限られるのであり、独立した研究者が恐れる必要はないという。
原告側弁護士キャリー・デセルはこれに反論した。アーメドが外国政府と連携していた証拠は存在しないと主張する。ボースバーグ判事が「基準から外れた人物にも適用されているなら、主張は崩れるのではないか」と問うと、リンジーは「アーメドはこの政策の対象ではなかった」と応じた。しかし、ルビオ国務長官自身がこの政策に言及しながらアーメドの国外退去を勧告したメモが残っている。
デセルは「この曖昧さこそが狙いのようだ」と述べた。何が「外国政府との連携」に該当するかが不明確であれば、政府は事実上、広範なビザ制限の裁量を維持できる。
「生まれなかった研究」という見えない代償
CITRのブランディ・ゲルキンク事務局長は審理後の記者会見でこう語った。「萎縮効果の最悪の部分は、生まれるはずだった研究が生まれないことだ」。
裁判所に提出された宣誓供述書によれば、ビザへの影響を懸念して研究発表を控えた者や、国際渡航前に特定テーマの論文公開を延期した研究者がいるという。制裁リストに載った5人だけの問題ではない。偽情報やコンテンツ規制を研究する広範な学術コミュニティへの波及が、CITRの訴訟の核心だ。
偽情報の拡散が社会的課題として認識される一方で、それを研究する専門家が沈黙を強いられるとすれば、皮肉な構図と言えるだろう。
判決が持つ国際的な射程
ボースバーグ判事は今後、この政策を差し止めなければ「回復不能な損害」が生じるかどうかを判断する。CITRに訴訟の当事者適格があるかという手続き上の論点も残っている。
この訴訟の影響は米国内にとどまらないだろう。EUのデジタルサービス法をはじめ各国がテック規制を強化する中、規制に関わった外国人の入国を制限する権限がどこまで及ぶかは、国際的なテック政策の対話そのものに関わる。審理でボースバーグ判事は政府の論理に繰り返し疑問を投げかけた。「どれほど不合理な政策であっても合憲性を問えないのか」という仮説的な問いは、少なくとも司法がこの問題に真正面から向き合う用意があることを示唆している。
制裁リストに名を載せられた5人と、声を上げられないまま沈黙を選んだ研究者たち——その双方にとっての転機が、ワシントンの一つの法廷で静かに準備されつつあるようだ。

