米宇宙企業Katalyst(カタリスト)の重さ約450キロの衛星「Link(リンク)」が、高度300キロ未満に落ちかけたNASAの宇宙望遠鏡Swift(スウィフト)を追っている。数週間かけて接近し、3本のロボットアームでつかみ、数カ月かけてより高い軌道へ引き上げる計画だ。
なぜNASAは民間企業にSwift衛星の救助を託したのか
NASA自身に軌道上で衛星を救う手段がなく、1年足らずで小型衛星を造って打ち上げられる民間の速さに賭けたためだ。
NASAが商業企業に「落下しかけたSwiftを救う方法を提案してほしい」と呼びかけたのは、1年もさかのぼらない時期だった。そこに最良の案を出したのがアリゾナ拠点のKatalyst Space Technologiesで、昨年9月に契約を勝ち取っている。それから9カ月あまり、約450キロの衛星Linkは無事に軌道へ乗った。宇宙業界を追う人間なら誰もが目を見張る速さだ。この規模の「前例のない衛星」を造り、試験し、飛ばすには通常なら数年かかる。
急いだのには理由がある。現在の低下ペースが続けば、Swiftは10月に高度300キロを下回る。そこまで落ちると大気の抵抗が強まり、Linkがランデブーを成功させる望みは薄くなる。つまりNASAとKatalystは、動かせない締め切りを抱えていた。米科学技術系メディア『Ars Technica』が報じたように、この救助は「その種のものとしては初」の試みだという。
太平洋の空から放たれたロケット
Katalystは航空機から空中発射する珍しいロケットを選び、赤道に近い太平洋上から打ち上げた。Swiftの低い軌道にできるだけ安く到達するための判断だ。
選ばれたのはノースロップ・グラマンのペガサスXL。過去7年でわずか1回しか飛んでいない、いまや稀少なロケットである。Linkはまずバージニア州のNASAワロップス飛行施設でロケットの先端に収められ、L-1011という大型輸送機に吊るされてマーシャル諸島のクェゼリン環礁へ運ばれた。ホノルルから南西へ約3,200キロ、太平洋のただ中に浮かぶ米陸軍の試験場だ。
数日間、好天を待った機体は現地時間の金曜未明に離陸し、高度約1万2,000メートルで全長18メートルのロケットを切り離した。5秒後に固体燃料の第1段が点火し、8分足らずで軌道速度に達する。打ち上げから約13分後、上段がLinkを予定通り分離した。なぜこんな遠回りをするのか。Swiftの軌道は赤道に対して20.6度としか傾いておらず、フロリダのケープカナベラルから狙うなら、はるかに大きく高価なロケットが要る。赤道直下の太平洋から撃つことが、その難題をまるごと解いてしまう。
「つかまれる設計ではない」衛星をどう捕まえるか
Swiftは他の宇宙機に捕獲されることを一切想定せずに造られており、Linkはカメラとセンサーで自力接近し、手探りのように把持しなければならない。
Linkには姿勢制御や通信といった標準機能に加え、Swiftへ自らを導くカメラとセンサー、そして観測衛星をつかむ3本のロボットアームが載る。がっちり連結できたら、3基のプラズマ推進機で二機を高い軌道へ押し上げる。だが難所はまさにここにある。Swiftには「つかむための取っ手」が最初から存在せず、どこにそれらしき箇所があるかを示す資料さえ乏しい。おまけに21年を経た機体の断熱材、いわゆるMLI(多層断熱材)がどんな状態かも分からない。
「これらすべてが困難で、リスクも高い」と、Linkの主任研究者を務めるキーラン・ウィルソンは語る。「はるかに長い開発期間と潤沢な資金をかけながら、つまらない理由で失敗した宇宙機はいくらでもある」。頼みの綱は、Swiftが自らの姿勢をきちんと保てることだという。数十メートルまで近づけば、Swift自身がLinkと歩調を合わせて動き、把持できそうな場所を一つずつ点検していく。剥がれたMLIが絡んでいないかを確かめながら、慎重に捕獲点を探る作業になる。
使い捨てから「軌道上サービス」の時代へ
この試みが成功すれば、壊れた衛星を捨てずに軌道上で修理・再利用する「軌道上サービス」が、実演ではなく本物の産業として立ち上がる。
Katalystの戦略提携担当副社長ロバート・ラモンターニュは、これを「歴史的なミッション」と呼ぶ。準備されていない衛星を捕まえられるロボット宇宙機は前例がなく、しかも実験ではなく商用の役務として行う点が新しいという。かつてNASAはハッブル宇宙望遠鏡の修理・改良にスペースシャトルを送ったが、あれは宇宙飛行士の船外活動を必要とした。人手を介さず、より安全で安価なロボットのサービスが確立すれば、応用の幅は一気に広がる。
ラモンターニュが掲げるのは「ダイナミックな宇宙運用」という発想だ。造って、打ち上げて、任務を終えたら大気圏に落とすか墓場軌道へ捨てる。その使い捨ての前提を彼は疑う。「打ち上げ前に下したばかげた決定に、運用者がいつまでも縛られる必要はない」。給油し、位置を変え、用途を変え、修理し、時に性能を上げる。太平洋の空から放たれた小さな衛星が21年前の望遠鏡に手を伸ばす数カ月後、宇宙は「造って、使って、捨てる」場所ではなくなっているのかもしれない。





