ベンディングスプーンズの2025年売上高は13億1,000万ドル(約1,900億円)で、2023年の3億8,700万ドルから2年間で3.4倍に拡大した。傘下ブランドの登録ユーザーは合計10億人超、有料顧客は700万人以上にのぼる。
ベンディングスプーンズとは何者か
ミラノを本拠に置くイタリアのテック企業で、老舗デジタルブランドを買収し再生させることを専業とする。AOL、Vimeo、Eventbrite(イベント管理・チケット販売サービス)などを傘下に持つ一方、親会社としての知名度は意図的に低く保たれてきた。
社名の由来は1999年の映画『マトリックス』だ。少年が念力でスプーンを曲げるシーンから名を取り、「常識を超えた変革」を体現するというメッセージを込めている。ユーザーはAOLやVimeoとして同社のサービスに接しているが、その上位に立つ親会社の名前を知る機会はほとんどない。
これは偶然の産物ではなく、同社の設計思想を反映している。B2C向けの積極的なPRを行わず、数字と実績だけを「会社の顔」としてきた。そのスタンスが今回のIPO申請で初めて変わることになる。
「買収→改造→再投資」が生む複利の論理
S-1(米SECへの上場申請書)に記されたプレイブックは明快だ。デジタルビジネスを買収し、深い変革と継続的な最適化で収益を拡大させ、その利益を次の買収に投じる。この「複利サイクル」こそが、2年で売上3.4倍を実現した原動力だという。
米経済メディア『Fast Company』の報道によると、S-1には将来の買収候補として1,000社超のデジタルビジネスを特定済みと記されており、その年間推定売上の合計は約4,000億ドルに相当する。AIを「強力な追い風」と位置づけ、買収後の改造スピードをさらに上げる計画だ。
売上の大半はサブスクリプション収入で、有料顧客700万人という基盤が安定した収益を支えている。景気変動に左右されにくいこのビジネス構造は、IPO市場でも評価されやすい。
AIブームの外側で上場する意味
ベンディングスプーンズはAI企業でも宇宙企業でもない。スペースX、アンソロピック、さらにはOpenAIも上場を検討しているとされる歴史的なIPOラッシュのなかで、「老舗デジタル資産の再生」という別の軸を市場に問うことになる。
アルファベットやメタも資本調達に動くなか、IPO需要は思いのほか多様だ。モルガン・スタンレーの株式資本市場部門共同グローバル責任者、アーノー・ブランシャールはこう指摘する。「IPO市場はひとつかふたつのテーマを超えて広がっている。成長、バリュー、インカム重視、セクター専門家と、多様な投資家層が需要を形成している」。AIブームに乗らずとも、上場の機は熟している。
映画のスプーン少年から名を借りたこの会社が、1,000社超の買収リストと複利の論理を武器に市場へ出る。AIとは別の軸で、老いたデジタルブランドを蘇らせる価値を問いかける上場になりそうだ。





