ベイエリアの「ブースター」たち
「ブースター」とは、店舗から商品を万引きして転売する人々を指すアメリカのスラングだ。ブーツ・ライリー監督の新作『I Love Boosters』は、サンフランシスコ・ベイエリアを拠点にする女性グループを主人公に据える。彼女たちは高級ファッションブランドの店舗から商品を盗み、正規価格では手が届かない人々に安く流す。タイトルは、ライリーが率いるヒップホップグループ The Coup の楽曲名から取られたという。
ライリー自身、ブースターとの接点は長い。「長いこと金のないラッパーだった。おしゃれでいるのは仕事の必須条件だから、ブースターにはずいぶん世話になった」と彼は語る。この映画が単なる犯罪ドラマと一線を画すのは、盗む側に感情移入させながら、同時に観客を居心地悪くさせる設計にある。
缶詰工場のストライキから映画監督へ
ライリーの原点は10代の労働運動だ。14歳か15歳のとき、カリフォルニア州ワトソンビルで缶詰工場のストライキを支援する若者イベントに参加したのが始まりだった。きっかけは不純だったと本人も認める。「女の子たちに『ビーチに行こう』と誘われて飛びついたら、『先にストライキの支援に寄るから』と言われた」。
だが、そこで出会った若者たちは世界のニュースを自分ごととして議論していた。世の中を変える力など自分にはないと思い込んでいたライリーにとって、その姿勢は衝撃だった。「彼女たちに『なりたい』と思った」と振り返る。やがて高校では年間制授業に反対するストライキを組織し、2,000人の生徒を校外に連れ出した。映画監督、ラッパー、コミュニティ・オーガナイザーという複数の顔を持つ現在のライリーは、このときの体験の延長線上にいる。
「引きつけて、突き放す」映画術
「観客を引きつけると同時に突き放したい。あの押し引きがほしい」とライリーは語る。前作の『Sorry to Bother You』や『I'm a Virgo』でも、社会の構造的な不平等を風刺やSFの手法で描いてきた。万引きという題材を選んだ新作でも、その方法論は変わらない。
「体制とは、労働者階級が支配階級に搾取される仕組みだ。それを覆す運動を起こさない限り、抜け出す道はない」と彼は言い切る。映画を社会変革の道具と位置づけるその姿勢は、ハリウッドの主流とは異質だろう。だが、ライリーの作品が一貫して試みてきたのは、「正しい答え」を差し出すことではなく、笑いと不快さの間に問いを挟み込むことだ。高級ブランドの万引きを階級闘争として描く『I Love Boosters』のその問いは、映画館を出たあとも、ふと財布を開くたびにちらつくかもしれない。

