72年越しの初TVドラマ化
ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』が出版されたのは1954年。飛行機事故で無人島に取り残されたイギリスの少年たちが、大人の監視なしにどう崩壊していくかを描いたこの小説は、以来、英米の高校読書リストの定番であり続けてきた。映画化は1963年と1990年の2度行われたが、テレビドラマとして映像化されたことは一度もなかった。
NPRのレビューによれば、NetflixとBBCの共同制作による全4話のミニシリーズは、脚本をジャック・ソーン、演出をマーク・マンデンが手がけた。撮影の大部分はマレーシアの熱帯雨林で行われ、密林の映像美がそのまま作品の没入感に直結している。音楽はハンス・ジマーらが担当し、劇中の少年聖歌隊に合わせた声楽アレンジが全編を貫く。
Adolescenceと対をなす暴力の構図
ソーンの前作Adolescenceは、SNSが少年を過激化させ、同級生殺害の容疑で逮捕されるまでの過程を全4話で描いたエミー賞受賞作だ。『蠅の王』はその鏡像とも言える。Adolescenceでは社会の「過剰な接続」が暴力を生んだが、『蠅の王』では社会との接続が完全に断たれたときに暴力が噴き出す。
NPRの批評家デヴィッド・ビアンクリは、両作を「対になる作品(companion piece)」と位置づけている。どちらも全4話、どちらもNetflix/BBC共同制作。同じ脚本家が同じフォーマットで、少年の暴力という主題を正反対の条件から掘り下げた構図は意図的だろう。
なお、近年ではTVシリーズYellowjacketsが「飛行機事故で取り残されたティーンエイジャー」という類似の設定を採用したが、そちらの生存者はティーンの少女たちであり、異なる変奏として注目を集めた。『蠅の王』のドラマ化は、こうした「隔絶された若者と暴力」というジャンルの系譜に、原典を改めて据え直す試みでもある。
無名の少年俳優たちが担う説得力
本作の最大の賭けは、ほぼ無名の少年俳優たちにすべてを託したことだろう。知性を象徴するピギー役のデヴィッド・マッケナは、飾らない自然体の演技で物語の感情的な核を担う。勇気を象徴するラルフ役のウィンストン・ソーヤーズとの関係性が、島の秩序と混沌の境界線を形作っていく。
ソーンの脚本はゴールディングの原作に驚くほど忠実だが、原作で早期に命を落とす少年の生存期間を延ばすという改変を一つだけ加えた。マンデンの演出は、最初の野生イノシシ狩りのシーンで観客を少年たちのただ中に放り込む。少年たちが「恐怖」から「野蛮」へと変容していく過程は、NPRの批評家が「忘れがたい」と評した通り、観た後もなかなか振り払えない。Adolescenceと合わせて全8話、同じ脚本家が両極から描いた少年の暴力は、観る側の視野をも広げてくれるかもしれない。

