2026/08/25
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オスマウスからメスのクローン作製に世界初成功。日本チームがCRISPRでY染色体除去

オスマウスからメスのクローン作製に世界初成功。日本チームがCRISPRでY染色体除去

日本の研究チームが、CRISPR(クリスパー)でマウスのY染色体を除去し、オスの胚をメスに変えることに世界で初めて成功した。生まれたメスはX染色体を1本だけ持つXO型で、健康に育ち、繁殖能力も備えていた。

オスのマウスから、なぜメスのクローンが生まれたのか

哺乳類ではY染色体がオスを決める。研究チームはそのY染色体だけを狙って壊し、XYのオス胚をメスへと「性転換」させた。

米科学技術誌『MIT Technology Review』が報じたところによると、山梨大学の生殖生物学者イシウチらと、理化学研究所バイオリソース研究センターのチームが、オスのマウスの細胞からメスのクローンを生み出した。ハワイ大学の生殖生物学者モニカ・ワードは「誰もこれをやったことがない」と評する。ただし研究は今月、査読前の論文(プレプリント)としてbioRxiv(バイオアーカイブ)で公開された段階にすぎず、正式な検証はまだ済んでいない。

着想のきっかけは、沖縄近海に暮らすハゼの一種だった。この魚は状況に応じて性を変える。周囲にオスがいなければ、メスがオスへと転じて別のメスと繁殖することもあるという。自然界にすでにある「性を切り替える」戦略を、哺乳類で人工的に再現できないか。それが出発点だった。

前例がまったくなかったわけではない。2009年には、オスのマウス細胞から作った27個のクローンのうち、偶然1匹だけメスが生まれた例が報告されている。今回はそれを、狙って起こせるようにした点が決定的に違う。

Y染色体を切る「Y-CUT」とは何か

Y-CUT(ワイカット)は、細胞分裂のたびにY染色体が娘細胞へ受け継がれる仕組みの「要」を、CRISPRで切断する技術だ。この一点を壊すと、細胞が分裂を重ねるうちにY染色体そのものが抜け落ちる。

初期段階のマウス胚でこの手法を試すと、Y染色体を消し去ることができた。処理したXY胚を代理母のマウスに移すと、メスの仔が生まれた。研究者はこれを「性の逆転(sex reversal)」と表現する。

生まれたメスは、X染色体を通常の2本ではなく1本だけ持つXO型だった。それでも成長や繁殖に支障はなく、健康に育って子も残せたという。さらにチームは、体細胞核移植という一般的なクローン技術にY-CUTを組み合わせ、オスのマウスと遺伝的にほぼ同一の、Y染色体を欠くだけのメスのクローンを作り出した。

凍結保存しておいたオスの細胞からもメスのクローンを作れることを確認し、そうして生まれたオスとメスを交配させると、健康な仔が得られた。「まるでSFのようだ」とイシウチは言う。

絶滅危惧種の保全につながる理由

この技術がまず期待されるのは、絶滅の淵にある動物の保全だ。クローンは元の個体の遺伝子をそのまま複製するため、オスを複製すれば生まれるのはオスばかりになる。だがY-CUTがあれば、オスの細胞からメスを作り、繁殖に欠かせない両性をそろえられる。

クローン技術はこれまでも、絶滅寸前の種を救ってきた。北米のクロアシイタチや、モウコノウマ(プルツェワルスキーウマ)は、その代表例だ。ただしクローンには弱点もある。遺伝的に同一の個体ばかりが増えると、その子孫は病気に対してもろくなりやすい。性を作り分けられれば、この難点を和らげる一手になりうると、MIT Technology Reviewは伝えている

野生生物保全団体リバイブ&リストアの主任科学者ベン・ノバックは「もっと多様な道具が生まれるのを見るのは、わくわくする」と話す。「希少種や絶滅危惧種に使える場面は、いくらでもある」

オスしか残っていない種にも、メスを取り戻す道が見えてくるのかもしれない。海の底で性を切り替えてきたハゼの戦略を、人の手がようやく実験室でなぞりはじめたようだ。