AI俳優は「受賞資格なし」
今回の改定で最も注目を集めたのは、AIに関する新規定だ。アカデミーは、演技賞の対象を「人間が自らの同意のもとに演じた役柄」に限定するとNPRへの声明で明言した。脚本賞についても「人間が執筆したもの」であることを条件とし、生成AIの使用については調査権を留保するという。
この規定が直撃するのが、話題のAI俳優ティリー・ノーウッドだ。制作会社パーティクル6が生み出したこのバーチャル俳優は、今年3月のインスタグラム投稿で「オスカーに行くのが待ちきれない!」とコメントしていた。だが、新ルールのもとでは、少なくとも当面、オスカー像に手が届くことはない。
アカデミーは声明の中で、サウンド、カラー、CGIといった技術の登場に合わせてルールを進化させてきた歴史に触れ、AIも同様に対応すると説明している。全面禁止ではなく、受賞の条件として「人間の創造的貢献」を明確化した格好だ。
俳優の複数ノミネーション解禁
AI排除の一方で、人間の俳優にとっては門戸が広がった。従来、同一部門でのノミネーションは1人1作品に限られていたが、新ルールでは上位5位以内に入る得票を得れば、複数作品での候補入りが可能になる。
2026年にメジャー作品5本の公開を控えるアン・ハサウェイのような俳優が、理論上はノミネーションを独占できることになる。デッドラインの映画批評家ピート・ハモンドは「3枠を一人が占めることすらありえるのか。おそらく実現はしないだろうが、可能性としては開かれた」と書いた。現実的には起こりにくいが、ルール上の天井が取り払われた意味は小さくないだろう。
国際映画部門 —「国」から「映画人」へ
もう一つの大きな変化は、国際長編映画部門の改革だ。従来、各国が公式に1作品だけを選出し、ノミネーションは「国の代表」としての性格を帯びていた。
新ルールでは、カンヌのパルムドール、ヴェネツィアの金獅子賞、サンダンスのワールドシネマ大賞といった主要映画祭の最高賞を受賞した作品にも出品資格が与えられる。同じ国から複数の作品がノミネート争いに加わることも可能になった。選考の主体を「国家」から「映画人個人」へ移す狙いがあるとみられる。
これまでは、優れた作品があっても自国の選考委員会に選ばれなければオスカーへの道は閉ざされていた。映画祭での実績という客観的な基準が加わったことで、作品本位の競争に一歩近づいたと言える。
「人間が中心にいる」映画賞へ
映画コミュニティの反応はおおむね好意的だ。SNS上では、「人間限定」のルールがクリエイティブな職業を守る動きとして広く支持されている。新ルールは2026年公開作品から適用される。
注目すべきは、アカデミーが取ったバランスだろう。AIを制作ツールとして使うこと自体は禁じず、最終的な表現行為の主体が人間であることを求めた。技術を敵視するのではなく、「人間の創造性が中心にあること」を受賞の条件として再定義したわけだ。
ティリー・ノーウッドのオスカーへの道は閉ざされたが、世界中の映画人にとっての扉は少し広くなったようだ。

