米ギャラップの調査では、71%のアメリカ人が「自分の住む地域にデータセンターが建つこと」に反対した。原発の建設よりも不人気な水準だという。
なぜポラロイドは反AIで戦えるのか
ポラロイドの反AI広告キャンペーンが成立するのは、アナログ写真というブランドの核心とAI批判がそのまま重なるからだ。矛盾がないぶん、メッセージに迷いがない。
今回の国際キャンペーンで、ポラロイドは白地に手書き文字だけというミニマルな看板を世界各地に掲げた。「リアルな物語を。ストーリーズやリールではなく」といった反SNSの一文もあれば、「死ぬ前に『もっとスマホを触ればよかった』と言った人はいない」と人生の優先順位を突く一文もある。
置き場所も計算ずくだ。ニューヨークやロンドンのアップルストア、グーグルのオフィス前、人通りの多い都市の中心部や空港。テック文化の総本山のような場所に、あえてアナログ礼賛のメッセージを差し込んだ。「私たちは五感でつながるアナログな生き物です。けれどデジタルのアルゴリズムに溺れるほど、共感や本当のつながりから遠ざかってしまう」と、ポラロイドのブランド・クリエイティブ責任者パトリシア・ヴァレラはプレスリリースで述べている。
看板が突いた「データセンターの水問題」
最も注目を集めた看板は、AIのデータセンターが消費する水を皮肉ったものだ。「データセンターが飲み干す前に、海へ飛び込め」。この一枚は、海を背にしたニューヨークのコニーアイランドに掲げられた。
AIを動かす巨大インフラの環境負荷は、いま世界中で議論が沸騰している。膨大な電力に加え、サーバーを冷やすために大量の水を使う点が、とりわけ批判の的になってきた。ポラロイドはその一番熱い論点を、たった一行のコピーで突いた。
数字も、この広告が時流に乗っていることを裏づける。世論調査大手の米ギャラップの調査では、71%のアメリカ人が自分の住む地域へのデータセンター建設に反対した。今や原発の建設よりも不人気だという。AI批判は、企業にとって叩いても反発の少ない格好の標的になりつつある。
「安易な共感狙い」という冷めた視線
一方で、この広告は「企業がAI批判を人気取りに使っているだけだ」という冷ややかな指摘も呼んだ。称賛一色ではない。
X上では「カメラ会社なんだから反AIで当然。『株主を皆殺しにしろ』と言ってるわけじゃあるまいし」と擁護する声が広がった。「今を生きるというブランドそのものだ」と評価する人もいた。だが同時に、文化的な話題性を狙う企業にとってAI叩きが「取りやすい果実」になっている、という見方も浮上した。
米国のデジタル文化ジャーナリスト、テイラー・ロレンツは「ブランドがAIやデータセンターへの反発を、エンゲージメント目的のSNSマーケティングに使う段階に来た」と指摘する。ポラロイドの誠実さを疑う声ではない。むしろ、反AIがそれだけ「売れる」記号になった事実を映している。
アナログが問い直す「今この瞬間」
皮肉なことに、ポラロイドの看板の写真はSNSで拡散され、まさにデジタルの力で世界に届いた。アナログを売るために、デジタルの拡散力を借りる。その矛盾も含めて、このキャンペーンは現代の広告の縮図と言える。
それでも、白い紙に走り書きされた一行のメッセージには、派手な映像広告にはない静けさがある。フィルムが一枚ずつしか撮れないように、目の前の景色に向き合う時間こそ、ポラロイドが売ってきたものだろう。
コニーアイランドの波打ち際に立った手書きの看板は、AIの是非より前に、私たちが今この瞬間をどう過ごすかを静かに問い直しているのかもしれない。





