2026/05/25
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出版大手5社がメタとザッカーバーグを提訴、AI訓練に海賊版数百万冊か

出版大手5社がメタとザッカーバーグを提訴、AI訓練に海賊版数百万冊か

「1冊でもライセンスしたら、フェアユース戦略が崩れる」

アシェット、マクミラン、マグロウヒル、エルゼビア、センゲージの出版大手5社と、ベストセラー作家スコット・トゥローが、メタとマーク・ザッカーバーグCEOを相手取り、ニューヨーク南部地区連邦地裁に集団訴訟を起こした。訴状によれば、メタは大規模言語モデル Llama の各バージョンを訓練するため、LibGen や Anna's Archive といった海賊版サイトから数百万冊の書籍や学術論文を無断でコピーしたという。

訴状が描く経緯は生々しい。メタは当初、出版社とのライセンス契約を「一時的に検討」していた。だが2023年4月に方針は一変する。ライセンスか海賊版かの判断はザッカーバーグに「エスカレート」され、その後、事業開発チームにはライセンス交渉を打ち切る口頭指示が下りたとされる。訴状に引用されたメタ従業員の言葉が、その論理を端的に示していた——「1冊でもライセンスしたら、フェアユース戦略に寄りかかれなくなる」。

トゥローは声明で「AIが約束する大胆な未来は、盗まれた言葉の上に築かれている」と述べた。全米作家協会のメアリー・ラゼンバーガーCEOも「史上最も露骨な著作権侵害だ」と断じている。

『推定無罪』から学術論文まで、対象はISBN保有者全員

訴状は侵害されたとする具体的な作品名を列挙する。トゥローの代表作である1987年の法廷スリラー『推定無罪』のほか、ダグラス・プレストンの『Impact』、ピーター・ブラウンの『The Wild Robot』、N・K・ジェミシンの『第五の季節』、レモニー・スニケットの『Who Could That Be at This Hour?』などが含まれる。学術書や研究論文も対象だ。

注目すべきは、この集団訴訟が代表するクラスの範囲だろう。訴状によれば、ISBNを持つ書籍、またはDOIやISSNを持つ学術論文の著作権者すべてが潜在的なクラスメンバーとなりうる。事実上、商業出版された書籍のほぼ全体が射程に入る計算だ。原告側はメタに対し、法定損害賠償、著作物のさらなる使用を禁じる恒久的差止命令、そして侵害コピーの破棄を求めている。

アンソロピックの15億ドル和解が作った地形

AI企業と著作権者の法廷闘争は、すでに前例を積み重ねつつある。2025年9月、アンソロピックは著作権侵害訴訟で15億ドル(約2,250億円)の和解金を支払った。この訴訟では、ウィリアム・アルサップ連邦地裁判事がまず「AI訓練のための書籍使用は極めて変容的だ」としてフェアユース主張を支持したが、その後、海賊版書籍を著者の同意なく使用した点については「許容されない」と判断を転じた経緯がある。

メタは「AI訓練に著作権素材を使用することはフェアユースに該当しうると、裁判所も正当に認めている」と反論し、「この訴訟には積極的に争う」と表明した。だがアルサップ判事が引いた境界線——「変容的利用」と「海賊版の無断使用」は別物である——は、メタの防衛ラインを狭める可能性がある。

ライセンス市場は「AI以後」に再設計されるか

この訴訟が浮き彫りにするのは、AI訓練データの調達に関する業界標準がまだ存在しないという現実だ。メタの内部文書が示すように、ライセンス契約はフェアユース主張と二律背反の関係にあると認識されていた。1冊でもライセンスすれば、残りの無断使用を正当化できなくなる。この論理は、裏を返せば、包括的なライセンスモデルが成立すれば業界全体の構造が動くことを意味する。

出版大手5社が足並みを揃えて集団訴訟に踏み切った事実は、個別交渉ではなく業界横断の枠組みを求める意思表示とも読めるだろう。アンソロピックの和解で生まれた「15億ドル」という数字が、今後のライセンス交渉における基準点になるかもしれない。海賊版サイトと法廷を経由してたどり着く先に、AI企業と出版社の共存の回路が開かれる可能性は、まだ残されている。