2026/05/25
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ガラスの泡1万5,000個のドレス——蘭デザイナーのNY回顧展が本日開幕

ガラスの泡1万5,000個のドレス——蘭デザイナーのNY回顧展が本日開幕

2,550時間のドレスが示すもの

5月4日のMet Gala。フリースタイルスキーの金メダリスト、アイリーン・グーが纏ったのは、虹色に光る泡が身体を覆い、動くたびに空中へ本物の泡が放たれる短いドレスだった。東京とロンドンを拠点とするデザインスタジオA.A.Murakamiとの共作で、1万5,000個の手作りガラスの泡を組み上げるのに2,550時間を要したという。

このドレスを手がけたのが、オランダ人クチュールデザイナーのイリス・ファン・ヘルペンだ。20年以上にわたり、科学を「共同制作者」として扱うという独自の方法論でファッション界に異質な存在感を放ってきた。エイの骨格構造、大型ハドロン衝突型加速器の磁場、クモの巣の幾何学——彼女のインスピレーション源は、通常のデザイナーとはまったく異なる。

ブルックリン美術館の「ファッション展」90年の系譜

ファン・ヘルペンの北米初の回顧展『Iris van Herpen: Sculpting the Senses』が、本日5月16日にブルックリン美術館で開幕する。パリ、ブリスベン、シンガポール、オランダを巡回してきた展覧会の到達点だ。

ブルックリン美術館は1934年の「Story of Silk」展以来、ファッションを美術として展示してきた先駆者でもある。クリスチャン・ディオール、ジャン=ポール・ゴルチエ、ヴァージル・アブローなどの回顧展を開催してきたその系譜に、ファン・ヘルペンが加わった。

展示は「水のあらゆる状態」から始まる。液体、氷、気体——水の変容がデザインの出発点になるという構成だ。同館シニアキュレーターのマシュー・ヨコボスキーによれば、日本のアートコレクティブ「目」の作品も並び、「海の断面を切り取ってギャラリーに置いたような」空間が生まれるという。

3Dプリントから生物発光まで——素材の実験史

ファン・ヘルペンの革新は美学だけにとどまらない。2010年の「Crystallization」コレクションでは、ファッションランウェイ史上初の3Dプリント衣服を発表した。英国人建築家ダニエル・ウィドリッグとの共作で、製造を担ったベルギーのMaterialise社は、それまで建築模型しか作っていなかった。

彼女のアトリエは魚の鱗を「模倣」するのではなく、鱗の構造を研究し、それを新素材に翻訳する。バイオミミクリー(生物模倣)の手法だ。アメリカ自然史博物館から借り受けた8,000万年前の魚竜の化石や恐竜の赤ちゃんの骨格が、骨にインスピレーションを得たクチュールと対話する形で展示される。

サステナビリティへの実験も注目に値する。海洋プラスチックごみからのリサイクル素材、3Dプリントしたカカオ豆、そして昨年は1億2,500万の生物発光藻類を「種付け」した「生きたドレス」をバイオデザイナーと共同制作した。ファッション産業が年間9,200万〜1億トンの繊維廃棄物を生み出すなかで、服の素材は石油化学製品だけではないという提案だ。

「最も遅いファッション」という逆張り

2026年のファッション業界はAI生成のルックブック、超高速サイクル、エージェント型コマースに支配されつつある。その対極で、ファン・ヘルペンはプレタポルテすら手がけない。クチュールだけに集中し、すべてを手作業で、科学者やアーティストとの協働で制作し、数は極めて少ない。

展覧会のために新たに制作されたビデオインスタレーションでは、アトリエの微細な動作——手の配置、針の引っかかり、刺繍面の緩やかな蓄積——が編集なしのリアルタイムで、高さ約7.6メートルのスクリーンに映し出される。「クチュールに注がれる遅いプロセスを、人々に理解してほしかった」とヨコボスキーは語る。

展示は12月6日まで。速さが支配する時代に、2,550時間かけて泡を1万5,000個組み上げるという行為は、それ自体がひとつの回答かもしれない。