2026/05/25
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ヴェネチア・ビエンナーレで審査員5人が全員辞任、アーティスト数十人も賞を辞退

ヴェネチア・ビエンナーレで審査員5人が全員辞任、アーティスト数十人も賞を辞退

審査員全員辞任という異例の事態

5月9日に開幕した第61回ヴェネチア・ビエンナーレは、異例の空気の中で始まった。開幕の9日前にあたる4月30日、審査員5人が全員辞任するという事態が起きた。

5人は辞任に先立ち、国際刑事裁判所(ICC)から指導者が人道に対する罪で訴追されている国には、最優秀国別パビリオンに贈られる金獅子賞を含むいかなる賞も授与しないと宣言していた。対象はイスラエルとロシアだ。

この辞任を受け、ローリー・アンダーソン、アルフレド・ジャール、ゾーイ・レナードら著名アーティスト数十人が賞の選考からの撤退を表明した。フランス、エクアドル、アラブ首長国連邦のパビリオンも同調している。

街路の抗議と揺れる各国パビリオン

混乱は会場内にとどまらなかった。開幕前日の木曜日、アート集団プッシー・ライオットがピンクのバラクラバを被ってロシア・パビリオンに突入し、発煙筒を焚きながら「プーチンをヴェネチアに入れるな」と叫んだ。ロシアは2022年のウクライナ侵攻後にビエンナーレから姿を消していたが、今回4年ぶりに復帰していた。

金曜日にはガザでの戦争に抗議する数千人が街頭に繰り出し、日本、フィンランド、英国のパビリオンがアーティストやキュレーターの行進参加のため数時間にわたり閉鎖された。

各国への波及は開幕前から進んでいた。南アフリカでは文化大臣がアーティストのガブリエル・ゴリアスにガザで殺害されたパレスチナ人詩人への追悼表現の削除を求めたが、ゴリアスは拒否。パビリオンそのものがキャンセルされ、そのスペースは今も空のままだ。オーストラリアでは参加アーティストのハレド・サブサビとキュレーターが右派政治家から反ユダヤ主義の批判を受けて一度降板させられたが、芸術コミュニティの反発を受けて復帰するという曲折をたどった。

74人のアーティストとキュレーターは公開書簡で、イスラエルとロシアに加え米国もビエンナーレから排除すべきだと主張している。一方、約20年にわたりビエンナーレに通う米国のギャラリスト、ジェシカ・クレプスはNPRの取材に対し「ビエンナーレは敬意ある対話の場であるべきだ。表現の自由と批判は、アメリカの本質でもある」と語った。1968年の第34回でも学生運動を背景にデモ隊がサン・マルコ広場を占拠した歴史があり、ビエンナーレと政治的緊張は切り離せない関係にあるとも言える。

来場者が金獅子賞を選ぶ日

審査員不在を受け、ビエンナーレは賞の選考を来場者に委ねる方針を打ち出した。チケット購入者が匿名のメール投票で受賞者を選び、結果は11月22日の閉幕日に発表される。

マティス、シャガール、ポロックの名を刻んできた金獅子賞の行方を、今度は来場者自身が決める。専門家の権威ではなく鑑賞者の眼で芸術を評価するという試みは、混乱から生まれた苦肉の策であると同時に、芸術祭の新たな可能性を開くものかもしれない。

ピンクのバラクラバと空のパビリオンが並ぶ2026年のヴェネチアで、金獅子賞を手渡すのは審査員ではなく、来場者一人ひとりの匿名の一票になる。