2026/05/25
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「声のきしみ」は女性より男性に多かった——49人の音声実験で通説が逆転

「声のきしみ」は女性より男性に多かった——49人の音声実験で通説が逆転

「ボーカルフライ」という現象

ボーカルフライとは、声帯が弛緩して不規則に振動し、文末などで声がガラガラと低くきしむ現象だ。基本周波数は約70ヘルツと極めて低い。1998年のブリトニー・スピアーズのデビュー曲で広く知られるようになり、ケイティ・ペリーやレディー・ガガなど女性ポップシンガーの「表現技法」として注目されてきた。

だが、この声の特徴が問題になるのは音楽の世界だけではない。2010年代に入ると、カリフォルニアの女性が男性より有意にボーカルフライを多用するという研究が発表され、「若い女性の話し方」として批判的な報道が相次いだ。2014年の別の研究では女性は男性の4倍の頻度でボーカルフライを使うとされ、就職面接でこの話し方をする女性は男性より否定的に評価されるという調査結果も出ている。

49人の音声が示した「逆転」

この通説に疑問を投げかけたのが、カナダ・マギル大学の大学院生ジャン・ブラウンだ。ブラウンは米国音響学会の年次総会で発表した実験で、カナダ人49人のオンライン音声サンプルを収集し、ピッチの不規則性やスペクトル傾斜、倍音対雑音比といった音響指標で客観的に分析した。

結果は従来の通説と正反対だった。ボーカルフライは女性より男性に多く、さらに話者の年齢が上がるほど使用頻度が増えていた。「若い女性の癖」という広く流布したイメージとは、ほぼ真逆の実態が浮かび上がったことになる。

なぜ「女性の声」だと感じるのか

ブラウンは第2の実験で、この認知のずれの原因を探った。自分の声でボーカルフライの度合いを変えた録音を作成し、性別が判別できないように加工。40人の被験者に、男性または女性の画像とペアにした音声を聞かせ、きしみの程度を評価させた。

判明したのは、被験者がボーカルフライを識別する主な手がかりは話者の性別ではなく、声の低さだったということだ。「この結果は、広く信じられている物語が実証的な現実よりも社会文化的バイアスを反映していることを示している」とブラウンは述べている。

興味深い傍証もある。米公共ラジオの人気番組『ディス・アメリカン・ライフ』の司会者アイラ・グラスは、自分がポッドキャストで頻繁にボーカルフライを使っていると認めているが、苦情を受けたことは一度もないという。一方で女性スタッフの声に対する批判メールは頻繁に届くそうだ。同じ音声現象でも、話し手の性別によって聞き手の反応がまるで異なる。

「話し方を直せ」から「聞き方を問い直せ」へ

ブラウンの研究が示唆するのは、ボーカルフライの問題が音声学ではなく社会心理学の領域にあるという点だ。「女性にボーカルフライを避けるよう指導することは、話し手に負担を押し付けるものであり、聞き手のバイアスに挑戦しようとしないその枠組みこそが実害を生んでいる」と彼女は指摘する。声の「正しさ」を話し手だけに求める発想は、そろそろ更新されてもよいだろう。49人の喉と40人の耳が交差した実験室から、「声のジェンダー」を解きほぐす糸口が見え始めているのかもしれない。