2026/07/10
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ニューヨークの行列代行ビジネスが加熱、1時間25ドルで他人の列に並ぶ人が4,900人超

ニューヨークの行列代行ビジネスが加熱、1時間25ドルで他人の列に並ぶ人が4,900人超

「行列に並ぶ」という、誰もがなるべく避けたい時間を、丸ごと肩代わりして稼ぐ人たちがいる。ニューヨークでは、それがれっきとした職業になっている。

ニューヨークには「行列代行」を請け負う登録者が4,900人以上いる。相場は1時間あたり25〜90ドル。TikTokで話題になる店ほど、その需要は跳ね上がる。

「他人の代わりに並ぶ」が仕事になったニューヨーク

行列代行(ラインシッティング)とは、報酬を受け取って他人の代わりに列へ並ぶ仕事だ。ブロードウェイのチケットからサンプルセール、人気レストランの席まで、待ち時間が発生するあらゆる場所が対象になる。

この分野の草分けが、ブルックリン出身のロバート・サミュエルだ。彼は約15年前、iPhoneの発売行列に商機を見いだし、行列代行会社「セイム・オール・ライン・デューズ」を立ち上げた。いまでは市内で平均35人ほどの代行者が依頼をさばき、時には市外にまで出向くという。料金は1時間25ドル、2時間から。悪天候や深夜、繁忙期には15〜25ドルの割増が乗る。

「行列代行は昔からあった。でもSNSが、それを以前より大きくした」とサミュエルは米グルメ媒体『Eater(イーター)』の取材に語る。「だから並ぶ人が増えた。私はどのプラットフォームよりTikTokのせいだと思っている」。

クロナッツを6人がかりで買いに行った日

黎明期を象徴するのが、クロナッツ騒動だ。ある依頼主は、日本から来たビジネス客をもてなすため、まだ見たことのない菓子で商談を決めようと考えた。それがクロナッツだった。

ひとり当たりの購入数に上限があったため、依頼主は1ダースを揃えるべく6人の代行者を送り込んだという。あれから約10年、行列の主役は移り変わった。この夏は、TikTokで拡散した「ドットケーキ」を求めて、マンハッタンのバターフィールド・マーケット前に早朝6時から列ができた。名店ルカリのピザには、雨のなか代行者が傘もささずに立ち続ける。

需要はニューヨークだけの話ではない。フリーランスのタスク仲介サイト「タスクラビット」では、行列代行の相場が全米で1時間28〜90ドルと示されている。登録者が最も多いのはニューヨークで4,900人超。ロサンゼルスやサンフランシスコ、シカゴにも各数百人がいる。ロサンゼルス在住のある代行者は、すでに84件以上の行列タスクをこなしてきたという。依頼者のレビューに並ぶのは、連絡のこまめさ、時間の正確さ、そして「ケーキを丁寧に扱ってくれる」という信頼だった。

窓にカメラを付けて行列を「中継」する時代

行列代行は、いま新たな段階に入りつつある。人気店の近くに住む人が窓辺にカメラを据え、行列の様子をライブ配信するサービスまで登場した。ゴールデン・ダイナーやランデュストリーといった話題店の混雑が、リアルタイムで画面に映し出される。

並ぶ手間を売る商売の隣で、並ばずに済ませたい人の欲望も商品になった。ロサンゼルスのインフルエンサーは「行列ができる店」だけを集めたグルメガイドを作り、その裏返しとして、ニューヨークの「行列のない店」を紹介するTikTokアカウントも支持を集めている。行列は、もはや避けるべき苦役であると同時に、話題性の証でもある。

列に並ぶという体験そのものが、味や評判と並ぶひとつの「価値」になった。誰かがあなたの代わりにドットケーキを抱えて待つあいだ、その光景はカメラ越しに世界へと流れていくのかもしれない。